笹間渡発電所 概要・歴史
神殿の如き発電所跡
笹間渡発電所(笹間渡水力発電所)は、静岡県島田市(旧・榛原郡川根町)にある水力発電所跡。
東海紙業(後の東海パルプ)が計画し1928(昭和3)年2月に着工、工事は大倉土木(株)が請け負った。総工費152万2千円を費やし、3年後の1931(昭和6)年2月9日から営業運転(出力4,030kw)を開始した。笹間川からサージタンクを経て流込み式の発電を行い大井川に放水する形式で、2台の発電機が設置された。
大井川鉄道が地名・笹間渡の両駅まで延伸されるのは1930(昭和5)年になってからで、工事中は機械・資材等を高瀬舟に乗せて運搬していた。また当時はパルプ市況が振るわず、工場従業員が発電所の道路建設などにも従事したという。
1937(昭和12)年7月に日中事変が勃発すると、国内経済は次々と戦時体制に切り替えられた。当時の笹間渡発電所はパルプ、製紙工場のほか、1931(昭和6)年から川根電力索道、1936(昭和11)年から東京電灯、1937(昭和12)年から大倉鉱業にも電力を供給していた。そのため自家用設備とは認められないとして、日本発送電に統合の指示があったが、「電力を人に渡すことは、パルプも売ることになっていまう」との社長の信念により守り抜いたという。
また電力拡充のため第二笹間渡発電所を建設する案もあったが戦禍により頓挫し、笹間渡発電所の出力を5,000kwに増大させるにとどまった。
戦後、大井川上流に中部電力の井川ダムおよび川口発電所の建設が計画され、水量が減少することになった。協議の結果、東海パルプの地名発電所・笹間渡発電所と中部電力赤松発電所が交換されることになり、笹間渡発電所は1961(昭和36)年3月31日に廃止された。
茶畑の中に神殿のようなコンクリート建築が残り、閉鎖後は農具置き場等として利用されていた。
陸路でのアクセスは困難で、大井川を徒歩で渡河する必要がある。鵜山森林公園の東側から大井川の河川敷に下りた後に2回渡河するルートが一般的だが、川根温泉笹間渡駅から3度の渡河を経るアプローチもあるらしい。
その神秘的な姿に加え、渡河以外に接近手段のない気高さが多くの廃墟ファンを惹きつけており、2018年1月放送の「世界の何だコレ!?ミステリー」(フジテレビ)でも取り上げられている。
2020年9月時点で、周辺の茶畑は管理が行き届かなくなっているらしく草木が繁茂し、アプローチには物件右側にある梯子を登った後で、若干の藪漕ぎが必要となっている。「2020.5.5」という落書きもあり、困難を厭わず挑戦する者がいるらしい。
2023年6月時点で現存するが、周辺にさらに草木が生い茂り建物にも蔦が這っており、少しずつ自然に飲み込まれていっている。渡河したとしてもその先の藪を越えて発電所に到達するのは以前より困難になっている。
また山間部にはサージタンク跡も残っているらしいが、到達は難しい。
(※参考:『東海パルプ六十年』(東海パルプ、1968年))