伊香保観光ホテル 概要・歴史
群馬のマヤカン、朽ちた有形文化財
伊香保観光ホテルは群馬県渋川市の伊香保温泉にあるホテル。「I観光ホテル」等として紹介されていることもある。
大正初期に建設された金太夫旅館別館を前身とする。初代建物は木造3階建て、半切妻造で、外壁を下見板張り、1階に食堂、2、3階に洋風の客室を備えていた。大浴場ではなく、1階に複数の小浴室が設けられていたという。
現存建物は2代目として1929(昭和4)年に竣工。伊香保の玄関口に位置する外国人向けホテルで、建築面積1874㎡、木造3階建て一部RC造地下室付き、瓦葺一部鉄板葺の建築で、外国人を意識した五重塔風の塔屋が特徴的である。館内には木彫りのらせん階段がある。また正門からの脇道を跨ぐ形で大食堂があり、三方にテラスが設置されていた。
終戦までは金太夫旅館の所有だったが、幾多の変遷を経て、1961(昭和36)年10月1日上信電鉄に買収され、1962(昭和37)年11月に「伊香保観光ホテル」と改称した。
客室は和洋35室、150名収容、舞台付き大広間、中広間、コルト、ピンポン、ホール、ジュークボックス、館内バー、テレビ室、売店などの設備を備えた。「コルト」とは「トルコ」のもじりで浴場設備の一種だったらしいが、具体的な形状等ははっきりしない。
半円形の窓や昭和初期のままの大広間、木造螺旋階段などの貴重な意匠が残ることから、1998(平成10)年9月2日には登録有形文化財(建造物)に登録されている。
なお、営業後期のパンフレットでは和室27室、収容人員100名と記載されており、内部の間取りなどが若干変更されたらしい。
宿泊者数の減少等により2007(平成19)年6月により事業を停止。その後は登録有形文化財であるにも関わらず放置され朽ちるままとなっている。
2018年10月時点で全体が草木に埋もれつつあり、地図上は表示される山側(南側)の二本の道はいずれも通行困難となっている。
荘重な建築から「群馬のマヤカン」と呼ばれることもある。道路沿いには往時の看板が残っている。
(※参考:『群馬県における温泉旅館建築の変遷』(村田敬一、2001年))